2017.10.11 更新

妊娠中の交通事故が原因で流産に…加害者に慰謝料は請求できないの?

流産した胎児への慰謝料は?

交通事故が発生し、不幸にも被害者の方が無くなってしまった場合、遺族には、死亡慰謝料の請求権が発生します。
これと同様に、妊娠中の女性が交通事故に遭ってしまい、お腹の子供を流産してしまった場合に胎児固有の慰謝料を遺族が請求できるのかが問題になります。
結論としては、胎児への慰謝料を加害者に対して請求することはできません。慰謝料はあくまで「人」に生じた精神的苦痛等を慰謝する目的で支払われるものです。民法上、「人」として権利能力が発生するのは出生してから、ということになりますので、残念ながら、流産してしまった胎児の慰謝料請求権はそもそも発生しません。そのため、発生していない慰謝料請求権は相続の対象ともならないのでご遺族の方がこれを行使する、ということも残念ながらすることができません。

流産による増額分の慰謝料

交通事故で残念ながら被害者の方が流産されてしまった場合、上記したように胎児固有の慰謝料請求を行うことはできません。
もっとも、母親が請求することのできる慰謝料の増額事由にはなりえます。すなわち、慰謝料は被害者の方の精神的苦痛を主として慰謝する目的で発生するものであるところ、新たな命の誕生を期待し、身を挺して実践してきた母親の胎児への期待、それを失ったことに伴う精神的苦痛については慰謝が必要である、という判断になるからです。
裁判例を例にとると、出産予定日に近ければ近いほど、慰謝料が高額に認定される傾向にあります。具体的には、出産予定日4日前の胎児の死亡について、母親に800万円の慰謝料を認めたもの(高松高等裁判所平成4年9月17日判決)、妊娠18週で死産した慰謝料として350万円認めたもの(大阪地方裁判所平成13年9月21日判決)等がありますので、これらを参考にすることになるでしょう。
もっとも、このような慰謝料の増額については、当該交通事故と流産についての因果関係、つまりは、当該交通事故が発生していなければ、流産することはなかった、子供は無事に生まれてくるはずであった、という事実関係が必要ですし、請求する側がそれを証明する必要があります。このことにも留意しておきましょう。
また、これらの事情以外であっても、例えば不妊治療を長い間続け、その上でやっとできたお子様だったような場合には、当然立証は必要になりますが、慰謝料の増額事由として考慮させる可能性があります。

流産する妊婦の交通事故治療

交通事故で流産してしまった場合、もっとも問題になるのは当該流産と当該交通事故との間の因果関係です。
通常、交通事故の被害に遭ってしまった場合、すぐに病院で診察を受け、怪我の治療を開始します。例えば骨折のような怪我を負ってしまった場合には、レントゲン撮影などをすることになり、その結果が、当該交通事故と当該怪我の因果関係を肯定する非常に大きな資料になるといえます。
もっとも、妊婦の場合、通常の方と異なり、できる治療とできない治療があることになります。上記したようなレントゲンなどは胎児への影響を考えて妊婦については行わないのが一般的です。
そのため、妊婦が交通事故に遭ってしまった場合には、積極的な治療ができない場面が存在してしまいます。このような場合、加害者側としては、当該怪我と当該交通事故の因果関係が存在しない、といった主張をしてくることも考えられるため、適切な治療、そして適切な記録を残しておくことが重要になります。
逆に、妊婦の方が胎児を残念ながら流産してしまった場合には、精神的にお辛いのは承知の上で、・・・ということになりますが、すぐに妊婦であれば受けられなかったような治療も開始すべき、ということになります。残念なお気持ちはお察ししますが、その分、しっかりと慰謝料を請求できるようにすることが事前の策です。そういった意識を持っておくことが妊婦の方が交通事故に遭われた際の治療に際しては非常に重要といえます。

加害者側との示談交渉

交通事故には様々なケースがあるため、一概に示談交渉でこうすべき!といったベストの方法があるわけではありません。あくまでケースバイケース、ということになります。
残念ながら母体にダメージがあり、胎児が流産してしまったような場合、上記したように慰謝料の増額事由になります。そのため、これをカードとして検討せざるを得ません。最高裁判所の判例や裁判例等を適切に引用し、当該交通事故の実態に即して妥当な金額を加害者に対して請求していく必要があります。
もっとも、胎児を失われたご両親にこの交渉を依頼するのは中々難しい面もあると思います。特にお母様が精神的に交渉されるのはお辛い面が大きいと思います。また、上記したように適切な判例などを踏まえた上での交渉の方が適切な金額が出てくることになるでしょう。
そういった意味では、弁護士費用がかかったとしても、代理人として弁護士を依頼し、交渉を一切委任してしまう方が負担も少なく、妥当な結論になる可能性が高いのではないか、その方が示談交渉として適切な方法ではないか、と私は思います。

加害者が負う刑事責任

胎児が流産してしまった交通事故の加害者が負う(負う可能性のある)刑事罰は、自動車同士の事故であれば自動車運転過失致傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)に問われるケースが最も多いことになります。飲酒運転などであれば危険運転致傷罪(同法2条)の適用、となるでしょう。この適用に際しては、被害者側としては告訴や被害届の提出、といった手続きを採ることになり、警察・検察がこれに呼応して刑事手続きを進めていくことになります。
上記したように、残念ながら、胎児は法的には「人」とは評価されません。そのため、あくまで胎児の流産、という結果に限っていえば、殺人罪や自動車運転過失致死罪といった、人の死が結果として発生している罪に問われることはありません。
これが加害者に対する刑事責任、ということになります。

加害者の民事責任とは?

交通事故が発生し、残念ながら被害者の方が流産してしまったような場合、加害者の負う民事上の責任は不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任、ということになります。
上記したように、胎児についてはそもそも法律上「人」とは残念ながら判断されません。そのため、母親、場合によっては父親による損害賠償請求、そしてそれに伴う加害者側の責任の中で胎児の流産についての民事責任を考慮していくことになります。
上記したように、ここで重要なのは、交通事故と胎児の流産の因果関係です。お辛いとは思いますが、しっかりと医師の診断書を取っておくことが重要です。その上で、ご両親に対する「慰謝」の中で金額を増額していく・・・というのが加害者が負うべき民事責任(金額は事案、特に出産予定日までの日数などに左右されることが多いです。)、ということになります。

父親に対する慰謝料は?

父親に対する固有の慰謝料の増額が認められるかというとこれは実務上でも判断の分かれているところになります。仮に、母親もなくなってしまっているような場合であれば、父親が母親の慰謝料請求権を相続することになりますので、当然、胎児についての慰謝料の増加分も父親が相続することになるでしょう。
もっとも、母親が存命の場合、母親の慰謝料請求額を増額できる可能性があることは上記したとおりですが、父親については母親への慰謝料でカバーされている、とする説と、父親・母親の精神的苦痛を区別する必要はない、とする説が存在し、裁判例の判断も分かれているところです。
この点については、事例判断になると考えられますので、専門家である弁護士に事案の分析・判例の分析を依頼し、少しでも有利になるように構成してもらう必要があるのではないでしょうか。

もし子供を産めなくなった場合には?

交通事故によって母体に衝撃が走り、その結果として、お母様が子供を産めない体になってしまうことも十分に考えられる事態です。
そういった場合、母体へのダメージの大きさとして、当然、医師の診断書などの証拠、それに伴う立証は必要にはなりますが、慰謝料の考慮事由として増額事由にすることはできるでしょう。
どの程度、考慮されるかは立証次第ですが、あくまで母親の「慰謝」が目的となりますので、母親が負ってしまったダメージを立証していくことになります。具体的には母親の年齢や、それまでに不妊治療をしてきたかどうか、他にお子様がいるかどうか、といった点が考慮されることになると考えられます。

流産と事故との因果関係を証明する

この記事内で再三述べていることではありますが、交通事故によって胎児を流産してしまい、その分の慰謝料の増額を求めていく場合、何より重要なのは、当該交通事故と胎児の流産との間の因果関係(原因がなければ結果が発生していなかったこと)、つまりは当該交通事故が発生していなければその胎児は無事に産まれてきたこと、を証明することになります。逆に言えば、加害者側はここを争ってくる可能性が高い、ということです。
例えば、シートベルトをしていた等、母親が出来得る限りの受傷軽減措置をとっていたこと等は重要な事実になるでしょう。また、実際の交通事故で母体にどのような衝撃があったのか、これを立証できるものがあるのであれば、準備しておいた方が確実です。忘れてはならないのは医師による診断書です。交通事故会が発生してしまった後、すぐに病院に行き、残念ながらるうう残してしまったような場合には、お辛いでしょうが、確実に、医師に診断書を書いてもらってください。あくまで「当該交通事故による」流産であることを明らかにしてもらっておくことが因果関係の立証には重要、ということになります。"

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