2019.2.5 更新
交通事故を人身事故で処理すべき3つの理由、人身への切り替え法とは?
「物損事故で届けたけど体が痛くなってしまった・・・」
「物損事故から人身事故に変更することは可能?」
事故に遭ったとき、自分では大したケガをしていないと思い、「物損事故」として届け出たけれど、しばらくして身体が痛くなることも……。
結論から言うと、後からでも「人身事故」に変更することはできます。そこで今回は、物損事故から人身事故に切り替える方法や、人身事故で届け出るべき理由について説明します。
物損事故で届けてしまい後悔している方、ぜひ一度参考にしてみてください。
目次
交通事故を人身事故扱いにするべき理由とは?
ここでは、人身事故ではなく物損事故にしてしまうことのデメリットや、物損事故から人身事故に切り替える方法について説明をします。事故の直後に体に痛みがないからといって物損事故として届けると、実は大きなデメリットがあるんです。
まず初めに、人身事故と物損事故の基本的な違いを理解しましょう。

人身事故と物損事故の違いとは?
簡単に人身事故と物損事故の違いを紹介します。
人身事故と物損事故の違い物損事故事故が原因で乗っていた車に傷がついた、もしくは事故の衝撃で物品が破損した事故
人身事故 | 事故が原因で被害者がけがを負った、もしくは死亡してしまった事故 |
お分かりの通り、人身事故は事故に関わった人間の体、命に関わるケースのものを指します。一方で物損事故は特に事故によって健康上の被害は出なかったが、自分たちが乗っていた車が事故によって破損してしまった場合などのケースを指します。
交通事故で人身事故ではなく物損事故にするデメリット
物損事故で届け出た場合のデメリットは大きく分けて3つあります。
物損事故にするデメリット
|
上記の通り、まず請求できる賠償金の金額が非常に低くなります。そもそも運転をするにあたって誰もが加入している自賠責保険も、補償となる対象は人身事故だけです。そのため自賠責保険から賠償金の支払いを受けることはできません。
さらに人身事故にしないと病院の治療費が支払われないため、かかった治療費も自腹になってしまいます。
そのため事故当時は特に費用面で困ることはなくても、長い目で見ると金額面で大きな損をすることに気づきます。軽い痛みしかない、もしくは痛みが無いからといって物損で届け出ると後で後悔してしまいます。
また、人身事故でないと慰謝料が発生しないので、相手に請求することができません。どんなに高級で思い入れのある車でも、家族のようなペットが亡くなった場合でも、物損事故であれば慰謝料の請求はできないのです。
後遺障害が残ってしまった場合でも、後遺障害の等級認定を受けてそれに基づく後遺障害慰謝料や逸失利益の請求をすることなども困難になります。
さらに物損事故では実況見分調書が手に入りません。
実況見分所とは事故の発生と発生した日時、事故当時者氏名などの事故状況が図や写真付きで詳しく記載されている書類です。警察が現場検証を行い、事故の当事者や目撃者に事情聴取を行い作成されます。
そのため裁判で事故状況を証明する最も重要な書類です。
もし加害者と事故の過失割合や事故の状況ををめぐり意見が合致しない場合、実況見分書はそうした過失割合や事故状況の証明に大きく役立ちます。
一方で物損事故の場合は物件状況報告書という比較的簡易な書類しか作成されません。そのため事故状況を説明し、自分の言い分を証明するには不十分である可能性は非常に高いです。
このように、人身事故を物損事故として届け出ても何もいいことはありません。例え事故当時に体に軽い痛みしかない、もしくは痛みが全くないとしても、物損事故での処理は絶対に避けなければなりません。
加害者が物損事故で済ませたがる理由とは?
交通事故の加害者は、事故を物損事故扱いにしたがることが多いです。それは、物損事故になったほうが加害者に有利だからです。
まず、物損事故の場合には、相手の免許証の加点が基本的にありません。
また、物損事故の場合には刑事事件になることもありません。交通事故で刑事事件になるのは、相手にケガをさせて過失運転過失致死傷罪や危険運転致死傷罪に当たる場合だからです。
物損事故の場合には裁判になったり、加害者側に懲役や禁固、罰金刑などの処罰を科されたりするおそれもなくなります。
さらに、物損事故になると相手が支払う賠償金の金額も非常に少なくなります。これは、物損事故になると支払われる賠償金の金額が少なくなることを意味するので、被害者にとっては不利です。
ほかにも、物損事故であれば示談交渉などもすぐに終わるので、加害者の負担が小さくなります。
以上のように、物損事故にすると加害者は非常に得をします。そのため、加害者は交通事故の現場で「物損にしておこう」などと言ってくることもあります。
しかし、このような誘いに乗ってはいけません。交通事故で身体に衝撃があったら、その場では痛みやしびれなどの症状がなくても、必ず人身事故として届け出るようにしましょう。
交通事故で物損事故から人身事故に切り替える方法とは?
もし事故直後には痛みがなく、物損事故として届け出てしまった場合であっても、一定の期間内であれば、人身事故に切り替えてもらうことができます。
そのためには、まずは病院に行って、医師に診断書を書いてもらわないといけません。このときのケガは交通事故の内容と一致していて、事故によって発生したという因果関係が認められる必要があります。
基本的には病院で診察を受けて、医師に診断書を書いてもらい、管轄している警察署に届け出るという流れになります。
また、前述のように、一定の期間内であれば切り替えが可能です。特にいつまでに届出を提出しなければならないという明確な期限は存在しません。ですが物損事故から人身事故への切り替えが認められるためには、事故からあまり日にちが経っていないことが重要です。というのもその痛みの原因が交通事故であることを証明しなければいけないからです。
あまり交通事故から日にちが離れてしまうと、その痛みの原因は交通事故ではなく別の出来事なのではないかと思われかねません。
できれば1週間以内、長くても10日以内には警察署に届け出るべきです。
人身事故への切り替えができなくても、手段はある
いったん物損事故として届け出てしまった場合、後から人身事故に切り替えようとしてもうまくいかないことがあります。
例えば、前述のように事故から時間が経ってしまうと、病院で思うような診断書を書いてくれなかったり、警察で切り替えを受け付けてくれなかったりすることがあります。
このような場合には、相手の保険会社に対して人身事故証明入手不能理由書という書類を作成し、提出すべきです。これにより、民事的な損害賠償については人身事故扱いにしてもらうことができます。
なお、人身事故証明入手不能書の書式については、保険会社から取り寄せることが可能です。
人身事故への切り替えの手続きが自分ではうまく進められない、あるいは方法がわからないという人は、弁護士に相談することをオススメします。
交通事故で人身事故に切り替え後、加害者が追う3つの責任
人身事故に切り替えた後、加害者側は3つの責任を負うことになります。それは以下の3つです。
加害者が負う3つの責任刑事処分通常の交通事故の場合過失運転致死罪に該当。7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金民事処分入院慰謝料、治療費、休業損害、入院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益などの支払い
行政処分 | 安全運転義務違反で基本的に2点の加算 |
まず、行政処分が違います。物損事故では免許証の加点がないのに対し、人身事故の場合には安全運転義務違反で基本的に2点が加算されます。
また、事故の結果によっては大きな点数の加算があります。例えば、死亡事故の場合なら13点か20点、重傷の事故であれば6点か13点、軽傷のときには2点から6点などの加点があります。
さらに、刑事処分も異なります。物損事故の場合には、刑事処分はありません。
しかし、人身事故の場合には、通常の交通事故であれば過失運転致死傷罪となって7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金が科せられます。
そして、非常に危険な運転の場合には危険運転致死傷罪となり、傷害の場合に15年以下の懲役、死亡の場合には1年以上の有期懲役となります。
ほかに、民事上の賠償責任も違います。
物損の場合には、追突し損傷した自動車の修理費用や買い換え費用などを支払えば済むのに対して、人身事故の場合には入通院慰謝料や治療費、休業損害、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益などの支払いが必要になるので、賠償金の負担が非常に重くなります。
人身事故で相手に請求できる慰謝料はどれくらい?
では実際に人身事故に切り替え慰謝料を請求することができるとき、被害者側はいったいどれくらいの慰謝料を手に入れることができるのでしょうか。まずは請求できる賠償金の種類について正しく理解しましょう。
交通事故の被害者が受け取れる賠償金(保険金)は、慰謝料とは違う
交通事故に遭うと、被害者は相手の保険会社から賠償金(保険金)を受け取ります。この賠償金には、治療費や休業損害、慰謝料などのすべての損害費目が含まれます。
つまり、慰謝料は賠償金の一部だということになります。
示談によって相手から賠償金の支払いを受けるとき、その賠償金のことを「示談金」と言います。そこで、相手の保険会社と示談交渉をして賠償金を支払ってもらうというのは、示談金を受け取ることを意味します。この示談金には、慰謝料や治療費も含まれます。
また、損害には「積極損害」と「消極損害」があります。
積極損害とは、治療費や交通費など、実際に発生した損害のことです。これに対して消極損害とは、慰謝料や逸失利益など、実際に支払いが必要になったもの以外の損害のことです。そして、これらをまとめたものが(損害)賠償金です。
積極損害 | 治療費や交通費など、実際に発生した損害 |
消極損害 | 経慰謝料や逸失利益など、実際に支払いが必要になったもの以外の損害 |
保険金というのは、相手の保険会社から示談金や賠償金の支払いを受ける場合に使う言葉です。特に、自賠責保険から支払いを受ける場合には、賠償金とは言わず、保険金と言うことが多いです。
慰謝料は、保険会社の基準で低く見積もられていることが多い
前述のように、交通事故の慰謝料の計算基準には、「自賠責保険基準(自賠責基準)」と「任意保険基準」、「弁護士基準(裁判所基準)」の3つがあります。これらのなかで自賠責保険基準が最も低額で、弁護士基準が最も高額になります。
慰謝料の金額が高くなる順
1.弁護士基準(裁判所基準) 2.任意保険基準 3.自賠責保険基準(自賠責基準) |
例えば後遺障害14級の後遺障害慰謝料の場合、自賠責保険基準なら「32万円」、任意保険基準なら「40万円」、弁護士基準なら「110万円」ほどにもなります。
相手の保険会社が慰謝料の計算をするときには、任意保険基準で計算をするため、本来請求できる金額よりも大幅に低くなることが多いのです。
そのため、相手が示談金の提示をしてきたときには、低い金額で見積もられていると考えるべきです。
そして慰謝料を増額するためには、弁護士に依頼をした場合に用いられる弁護士基準で請求をする必要があります。
慰謝料の算定方法はどのようになっている?
それでは、3つの基準で入通院慰謝料を計算すると、具体的にどのくらいの金額になるのかを見てみましょう。
自賠責保険基準の場合には、「4,200円×対象となる入通院の日数」です。
入通院の日数については、「治療期間(事故から完治、症状固定までの全日数)」と「実通院日数(入院した日数と実際に通院した日数を足したもの)×2」を比べて、少ないほうの金額が採用されます。
自賠責保険基準の入通院慰謝料=1日あたり「4,200円×入通院期間(※1)」 ※1:入通院期間=「総入通院期間」と「実際に入通院をした日数×2(※2)」の少ないほう ※2:実際に入通院をした日数=入院日数と病院に足を運んでの治療日数(実際の通院日数)の合計 |
例えば、治療期間が3ヶ月(90日)、実際に通院した日数が30日のケースでは、「実通院日数×2=60日」のほうが90日よりも少なくなるので、こちらの日数が採用されます。この場合、入通院慰謝料の金額は「4,200円×60日=25万2,000円」となります。
任意保険基準の場合には、だいたいの相場があります。例えば、通院3ヶ月であれば「37万8,000円」ほどになります。
弁護士基準の場合には、軽傷の場合と通常のケガの場合とで異なる基準が適用されます。通院3ヶ月で軽傷の場合には「53万円」、通常のケガの場合には「73万円」となります。
人身事故で後遺障害が残った場合は、傷害の損害とは別に慰謝料を請求できる
人身事故に遭うと、後遺障害が残るケースが多いです。このような場合にも、慰謝料を増額することが可能です。
後遺障害とは、事故によってケガをしたとき、治療を継続しても完治せず、何らかの症状が残ってしまった場合の障害です。後遺障害が残ると、その程度や内容に応じて相手に賠償金の請求ができます。
後遺障害には1級から14級までの等級があり、それによって後遺障害慰謝料と逸失利益を計算することになります。その金額に従って、相手に後遺障害慰謝料や逸失利益の請求をすることが可能です。
後遺障害の症状には、以下のようにさまざまなものがあります。
・むちうちで神経症状が残るケース ・骨折で変形が残るケース ・腕や脚が欠損するケース ・機能が失われるケース ・視力や聴力が落ちるケース ・歯がなくなるケース ・PTSD(※)などの精神症状が残るケース ※心的外傷後ストレス障害 |
重度な後遺障害になると、植物状態になってしまうケースや高次脳機能障害が残るケース、脊髄損傷で身体が麻痺してしまうケースなどもあります。
後遺障害が残った場合には、示談の前に後遺障害の認定を受けて、その等級に基づいて後遺障害慰謝料や逸失利益を計算し、相手に請求をしなければなりません。
しかし、示談までに後遺障害が確定しなかったケースでは、示談後に別途、後遺障害についての慰謝料や逸失利益の支払いを受けられることもあります。
- 相手が示談金の提示をしてきたときには、(任意保険基準による)低い金額で見積もられていると考えるべき
- 慰謝料を増額するには、弁護士基準で請求をすべき
- 人身事故で後遺症が残った場合、傷害の損害とは別に慰謝料の請求が可能
人身事故の慰謝料は弁護士に相談で増額できる
ここまで本記事を読んだ人は、交通事故に遭ったら、体に痛みがなくても人身事故として届けること、適切な慰謝料を受けるために弁護士基準で請求することが理解できたかと思います。
そして、弁護士基準で請求するために、弁護士に依頼をしましょう。
示談交渉はすべて弁護士にお任せ。弁護士に相談するメリットとは?
交通事故の被害者になったら、弁護士に示談交渉を依頼すべきです。それは、以下の理由からです。
・慰謝料などの賠償金額が上がる ・過失割合の適正な認定により、請求できる賠償金額が上がる ・後遺障害の等級認定を確実に受けられる ・後遺障害の等級変更を受けやすくなる ・事故後の通院方法などがわかりやすくなる ・示談交渉の流れや期間などがわかるので安心できる ・示談によって受けられる賠償金の予測が立つ ・相手側の保険会社とのやり取りがなく、ストレスを軽減できる ・弁護士が味方という安心感がある ・法律的な問題で思わぬ不利益を受けなくなる ・判断に迷ったときにいつでも相談できる |
弁護士への依頼にかかる費用や相談方法
以上のように、交通事故の被害者は弁護士に依頼をするとたくさんの大きなメリットを得られます。しかし、弁護士に頼むとなると、費用がかかってしまうイメージを持つ人も多いようです。
ところが、最近では多くの弁護士事務所で、相談だけなら無料でできるサービスを実施しています。そのようなサービスを利用すれば、相談料を負担することなく、弁護士のアドバイスを受けられるのです。
さらには、着手金や報酬金などを負担しなくてもいい場合があります。それは、任意保険の弁護士特約(弁護士費用特約)を利用する場合です。
弁護士特約(弁護士費用特約)とは、自分が加入している任意保険(自動車保険)につけることができる特約で、これを利用すれば、交通事故によって弁護士にかかった費用をすべて保険会社が負担してくれます。
法律相談料なら1つの事件について10万円程度、着手金や報酬金などの費用なら1つの事件について300万円までの限度額が設定されていることが多いです。つまり、300万円までなら弁護士費用を保険会社が負担してくれるということです。
300万円以上の弁護士費用が発生するというのは、かなり大きな事故に限られると言えるでしょう。弁護士特約を利用すれば、そのようなケースでも費用の心配をせず、弁護士に示談交渉を依頼できます。
交通事故に遭ったときに、費用の心配をすることなく弁護士に依頼できるように、弁護士特約をつけておくといいでしょう。
- 交通事故の被害者になったとき、示談交渉は弁護士に依頼をすべき
- 示談交渉を弁護士に依頼すると、慰謝料などの賠償金額が上がる、後遺障害の等級認定を確実に受けられるなど、多くのメリットがある
- 弁護士事務所の無料相談サービスや弁護士特約を活用すれば、費用を抑えられる
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